自分を知ることは難しい。
ゲーテの言葉を借りるまでもなく、僕らは僕らの人生自身で嫌と言うほどそのことを思い知らされます。
その理由は脳がものごとを解釈する方法によってもたらされている部分も多いのかもしれません。
本書は、脳の仕掛ける「トラップ」を理解し、少しでも「正しい」判断をするための心得を教えてくれます。
節約せよ、と命令してきた
本書によれば、我々は最も効率的にものごとが判断できるように余分な情報を入れないように進化してきた、と言う。進化は私たちの脳に、つねに節約せよと命令していた。
(中略)
人間の目が感知する色は、赤から紫に移る。赤外線も見えたほうがよかったのではないだろうか。
そうすればはるかに便利になる。
(中略)
過剰な情報で脳に負担をかけたりしないのだ。その分だけ刺激への反応のスピードが増している。
過剰な情報は、判断するスピードを鈍らせる。
例えば、外敵に襲われて生死に関わるような場面で、危ない!と判断するのに赤外線まで見えて相手の内蔵を確認する必要はない。
それよりもいち早く逃げることのほうが優先。
昔、NIGHT HEADという物語があったが、人間の眠っている脳が使えると言うのは、もしかしたら進化ではなく退化なのかもしれない。
直感はあてにならない
PhotoshopやIllustratorを使ったことがある方なら、わかると思いますが、ベベルやエンボスという機能がなぜ我々に凹凸を与えるのか。人間の脳は、光は一方向からくる、光は上からくる、と言うことを覚えていて物体に陰影ができるとその「常識」にあてはめて二次元の世界に三次元を作り出してしまうそうです。
我々が、直感的にそうだ!と認識するものは例外なく過去の「常識」に歪められて判断している。
前述したように、脳は常に節約せよ!と我々に命令している。
従って、我々が判断する時には多かれ少なかれ直感によってある程度の判断をした上で部分的に論理的に考えることになる。
利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)、想起ヒューリスティック
想起しやすい事柄や事項を優先して評価しやすい意思決定プロセスのことをいう。
英語の訳語である検索容易性という言葉の示す通りのヒューリスティックである。
代表性ヒューリスティック(representative heuristic)
特定のカテゴリーに典型的と思われる事項の確率を過大に評価しやすい意思決定プロセスをいう。
代表的な例として、「リンダ問題」がある。
係留と調整(anchoring and adjustment)
最初に与えられた情報を基準として、それに調整を加えることで判断し、最初の情報に現れた特定の特徴を極端に重視しやすい意思決定プロセスをいう。
(via ヒューリスティクス - Wikipedia)
占いとモテるテクニックは一緒
わかってはいるけど、占いの言葉を信じてしまう。そのような方は、口説くためにはとてもありがたい習性ですが、本人以外の第三者からはとても滑稽に見えるもの。
占いに代表される、誰にでもあてはまるような曖昧で一般的な言葉を、自分だけに当てはまる正確なものだと捉えてしまう心理学の現象をバーナム効果と言うらしいです。
バーナム効果(バーナムこうか、英: Barnum effect)とは、誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格をあらわす記述を、自分だけに当てはまる正確なものだと捉えてしまう心理学の現象。
(via バーナム効果 - Wikipedia)
人は誰でも自分を自分の見たいようにしか見ていない。
占い師が言うことが「正しい」と判断出来ているのであれば、あえて他人に聞く必要もないと思うのだが。。
「価値」なんて人それぞれ
例えば、高いワインを飲ませてもらった時に、自分には全くわからなくてもこれが美味しいワインという事なのかな?と思ってしまう。本当は価格なんて、欲しい人の数と作ることができる量と、ブランドで決まるもので味そのものには直接的には関係ないのに。
そのような心理現象をハロー効果というらしいです。
ある対象を評価をする時に顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のこと。認知バイアスの一種である。
(via ハロー効果 - Wikipedia)
本当は、ものでも人でもそれが良いと判断する基準は人それぞれで良いはずなのに、その本質ではない性質だけが過度に取り上げられ、本質とはかけ離れた場所での評価がその評価を決めてしまう。
これは、テレビで良くやる手法ですね。
研究者が偉大な発表をした時に、その発表した内容はほとんど知らないのにその人が小学生の頃に書いた卒業文集の言葉だけ知っていたり。
偉大な研究を成功させた人だから、人格的にも優れているのだろう、と勝手に決めつけて、そうでないとわかると裏切られた!と騒ぎたてる。
その人本人は、何も変わっていないのに。
最後に
本書は、難しい言葉や英語を日本語に翻訳した時の独特の冗長さはあるものの、少なくとも、自分が考えている「常識」はあまりにも危うい、と言うことは良くわかります。脳はいつも「楽」したがっている。
だから、判断を謝るし、判断を誤ったことすら覚えていない。
他の誰かではなく、自分自身がいかに危うい判断のもと生きているかを理解するだけでも、他者に対して否定的に考えることが減るのではないでしょうか。
以上です。